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【題 名】北海道発・ブロック住宅について
【誌 名】住宅建築
【発 行】平成元年9月1日
【発行所】建築資料研究社

北海道発・ブロック住宅について

小室雅伸

 ブロック造住宅を手がけたのは9年前になる. その頃,北海道では寒冷地住宅とか省エネ住宅に対する議論,技術改良が盛んになり始めていた頃で,話題の中心は圧倒的多数を占める在来工法の木造住宅であった. やっと断熱材を入れることが定着したのは良かったが,そのことにより内部結露などの現象が耐久性を損なうといった問題が分ってきた時期でもある. その解決のためには,従来の工法に手間と材料を付け加えることが必要であり,それは木造であるが故に当然のことであった. 今ではそれらの改良工法はあたりまえになりつつあるが,手間と材料が増す,すなわち工費がかさむ方向への動きには抵抗があったことがブロック造に手を出し始めた大きな理由である. できる限り単純な工法で,安価な材料を使って,寒さ暑さに強く,耐久性のある建物を求めるのは当然のことで,それをブロック造はかなり受けとめてくれそうだと思ったからである.

 結果,コンクリ−トブロックという北海道においては極めて安価な材料は外断熱を施すことに依って高い蓄熱性の効果でさまざまな問題を解決し,高い居住性能をもたらしてくれることを作るたびごとに発見させられて,病みつきになっている. 次々と開発される建材や設備装置は代価と引き換えに快適さをもたらしてくれるが,まずは,床,壁,屋根,窓でどこまでやれるかを第一に考えるべきと思っている. 設備など少なければ少ないに越したことはない.建築も私たちの生活そのものと同じように身軽な方が良い. 重ったるくて,武骨で,野暮ったいブロック造が,北海道の風土の中では身軽な建築になっているところが気に入っている.
 この6軒の住宅は,昨年,一昨年に完成したものばかりで,全てが札幌市内,近郊の住宅地に建っている. それぞれの条件に依り表現が異なるが,これらを含めてこれまで手がけたブロック造の住宅は三つの型に分類される.

 一つはブロック造住宅の第一号「手稲の三角屋根I」以降,基本型としている三角屋根シリーズである. 1階をブロック二重積みとして2×4構法で矩勾配の屋根を架け,小屋裏2階建とする「美しが丘の三角屋根3」の構成である. この場合,まず構造体である内側のブロックを積み,断熱材を貼り付けた後に外側のブロックを積み上げてから臥梁の型枠を取り付けて一体に打ち込むことができる. スラブを打たない場合でも二重壁の厚さ40cm幅の臥梁となるから,ブロック造規準をクリアーする臥梁ができあがる. 2階部分は2×4の要領で小屋を組むと無柱の空間となる. この小屋組の垂木が連なる様が美しいので,露出させるために野地板の外側に断熱を施すことにしているから,構造体としての垂木は空気にさらされ腐れの心配がない. その代り「美しが丘の三角屋根4」のように桁行方向の間仕切は面倒になることと遮音が弱くなることは要注意である. この2階建三角屋根は単純な構造でローコスト化を計ることができるが,特殊な敷地でない限り,延40坪以内の住宅が適当な規模である. 大きな面積を必要とした「4」ではブロック造部分を二層にして敷地に対応させている. ここでは二重積みとせずに鉄板とモルタルを使って外断熱の外装としているのは,敷地環境や建物の納りなど技術的なことの検討からである.

 平家の「美しが丘の家3」も構法の考え方はこの中に含まれる.屋根型を敷地の条件などに合せて選択し,臥梁のみにしておけば三角屋根に載せ換えて2階建にすることもできる.

 二つ目のタイプは,「ボックス」と呼んでいるタイプである.組積造だから構造上,上下階の壁を重ね合せることは必要条件であり,総2階,総3階にするのが経済的でもある. この2軒は共に3階建であり,ほぼ同じ建築面積であり,最上階をリビング階としているのは,この高さのレベルになると一般的な住居地の中では眺望,採光など多くの利点があり,居心地良い空間体験ができることと天井面の仕掛に自由が与えられるからである.

 三層分通して積まれている外側のブロックは内側のブロックとおよそ80cm角ピッチにアンカー鉄筋で結ばれる. このアンカー筋の施工は馴染みのない工程であるから注意を要する. 屋根は構造体としてのスラブの上に断熱を施し,さらに置きスラブで外側ブロックの頂部つなぎも兼ねて断熱材押えとして防水を施している.壁から屋根へと外断熱の連続は保たれるが,防水層が露出となることは不満ではあるが,二重スラブだから防水性能としては安心感は高いと考えられる.

 3階建は当然ながら熱効率も高い. 「平岸のブロックボックス」では主暖房は玄関に置いたFF式の石油ストーブ〈6,000Kcal ほど)1台でまかなわれる. 主要な部屋は皆日当りが良いこともあるが,床暖房においても極めて少ない消費量で済むことは確かである.
 この3階建ボックス型では,「ブロックボックス2」で試みたようなバルコニーのような外部空間をどのように織り込むかという居住性の問題と,同じく「2」で試みたような頂部の外装を切り換えたりポーチ廻りでパーゴラを組んだりする.周辺環境との応答に対応するプロポーションの調整の問題に興味がある. ブロックの強い堅固なイメージを,内部空間においても外部の見え方においても柔らげることができなければならないと思っている.

 もう一つは,「文京台の家」のような複合的な構成である. それは,ボックス型のように組造の構造的な規律を全体にかぶせるだけではなく,三角屋根型のように木造など他の構造を混合させることも,あるいはブロックという小さな単位を自由に扱う手法などを混在させて構成していく手法である. この場合は,他の二つの型とは違って意図的な形態操作も加わってくる. ブロックのモジュールの反復に依る規律正しい美しさとは裏腹に,手仕事的なルーズさもブロック造の他にはない面白さでもあるし,他の材料,構法(木造をもっぱら用いているが)を並置することにより,ブロックの魅力を引き出す作業になる.

 既に手がけたブロック造住宅は20を越えているが,ディテールや材料の使い方などいつも試行錯誤である. このところ,床暖房にフローリング材の床,サッシュはスウェーデン物と常用することが多いが,基本的には化粧仕上げは避けて構造即インテリアとするから,毎度少しずつディテールは変ってゆく. とりわけ窓廻りや木造とブロック造との取合いは作るごとに考えさせられる. 言うなれば粗末な材料をムキ出しに使うだけに,ディテールはきっちり納めなければ,だらしなさだけが見えてしまうことは当然のことである.できる限り少ない工程で,少ない材料で,無駄のない造りにすることによりブロック造の素朴な良さを損なわないようにしたいと思っている.

 私のブロックへのこだわりは.理念的なものからではなく実質的な性能,コスト,耐久性といったことから出発している. これらの住宅は特別な作品でもなく,特殊な要求のもとに生まれたものではない. 気取らぬインテリアに長続きする姿で,確実に北海道の暑さ寒さといった風土に見合う住宅を作りたいと思っている.


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