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【題 名】外断熱の効果と各部位のディテールの考え方
【誌 名】建築知識8月号
【発 行】平成15年8月1日
【発行所】株式会社エクスナレッジ
建築知識2003年8月号(現在発売中)に外断熱に付いて書きました。
いくつか、誤植や校正未了部分などあるのでそれらを明記して転載しています。

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注1(224P中段) : 「通気工法はやや面倒な工程を要するため、簡便さを求めた工法として、断熱材を張り付け、その上に特殊な塗材(上記 のように貼り付けた断熱材より透湿性の高い材料)で仕上げてしまう工法がある。欧米で外断熱工法の主流になってい るもので、日本にも輸入されている。工程が単純で複雑な部位にも使いやすくいが、断熱材から仕上げ材まで一貫した メーカー仕様に限られる点を承知すれば工法の一切を委ねてしまえる利点は大きいと思われる。」



以下は、建築知識への元原稿です。紙面の関係で文章の調整は編集者に委ねたので、未掲載部分を読んで下さい。


外断熱の効果と各部位のディテールの考え方



T 外断熱のすすめ

1 話題作を読む
  ヘルツォーグ、ズントー、フォスター、ピアノ、ヌーヴェル、ゲーリー、マイヤー、ボッタ、少し前の世代アールト、アースキン、スターリングに巨匠ライト、コルビュジェ。 名作・話題作の数々をデザイン論、表層の形態への興味だけではなく室内環境の制御、今流の言葉でサスティナブルデザインの視点で読むことを先ずおすすめする。 大胆で強烈な形態表現が、数々の建築環境工学的視座・分析に基づく根拠があることを理解できるはずだ。それが作品の強さの重要な要素なのだ。 外断熱工法はごく当たり前の基本手法の一つに過ぎない事も理解できるに違いない。 ブルータスの読者と同じ視点のままではプロとは言えない時代にもなっているのだから新たな発想のツールに加えて無駄にはならないはず。
外断熱そのものではないが、その視点において最近作の中で私にとって衝撃no.1はヘルツォーグのドミナス・ワイナリー。 蛇篭に詰めた粗石のファサードのあれだ。 古代から生活の知恵として利用されている玉石の熱容量・蓄熱性によるワインセラー機能としての環境制御、蛇篭というありふれたローテク、 それが蛇篭壁の量感と透過する光(ヘルツォーグの真骨頂としてここだけが語られるが)のファサードに結実する見事な合理性がそこにある。 外断熱やら熱環境がどうのこうの、っていうのはデザインに制約多くなるからねー、などとはもう言え無いはずだ。


2 外断熱設計は楽である
  私が外断熱を手がけ始めた20数年前とは違って、今では外断熱に関する様々な特性の解説や工学データ・ディテールなどの情報を容易に得ることができるようになった。 詳細な説明は面倒がらずにそれらを一読してもらうことにして、建築家の立場で経験したことだけ、今考えている事だけを述べることにする。
外断熱設計が実務において楽ができることの最大の理由は、まさに断熱材を外に追い出せたことによる設計の自由さの獲得なのである。 私はずっと北海道で仕事をしてきたから断熱材の無い設計はしたことが無いし、やらない。 打ち放しコンクリートの壁に枠無しでガラスぴしゃりと納めスーっと外へと連続する…、などというのは残念ながら力技のディテール勝負と大きなコストの支えと施主への入念な事前弁明を要することなのである。
エネルギー問題がとうとう法制化した。 温暖と言われている地域でこれまでは断熱材を横目で見ながら仕事できてた皆さんも、次世代省エネ基準対応などで否応無しに断熱材を記載する羽目になるに違いない。 ざまー見ろ、である。いやいや、冒頭に述べた設計の自由さ、の意味の大きさを補足説明したいだけの事。

  図−1は基本的な外断熱の特徴を示す摸式図として良く使われる。 内断熱では、外壁とつながる間仕切壁(あるいはスラブ)で断熱が途切れるから断熱補強を必用とする。 結果、断熱材の厚みで間仕切壁面には段差が生じてしまうし、断熱材を覆う仕上材によって躯体は隠されてしまうのである。 床壁天井全てコンクリート打ち放しのインテリアデザインはできません。

  もう一つ、断熱材+仕上材の厚みに注目する。わずかとは言え実利用面積を減らされる。 一般的なウレタン吹付にプラスターボードGL工法で60oくらいにはなる。部屋の広さの少々の目減りには目をつぶるとしても水廻り等の部分は厄介。 例えば、ユニットバスをこの部分に設置するときクリアランススペース、デッドスペースが増えてしまう。 たかが20〜30oでもこういう部分での数十mのやりくりが大変なことは皆さん経験済みのはず。 タイル割や目地揃えなど納まりを考えていくと、どんどんフカシが増えてしまうことの忌々しい元凶になるのである。 内断熱ではプランニング段階から断熱材が張り付く部分を見極めておかないと苦労が増す。
以前、延700u程の公共施設計画で、外断熱の優位性を示す材料として内断熱仕様の面積損を試算したところ8畳間一つほどであった。 事例で紹介するジャンプレッツ(写真-1)は外壁周長が約110m、2階建だからやはり8畳間1個分、実際はこれに断熱補強の影響が加わるのである。 外壁面積が大きいコートハウス型や狭小地の細長小住宅ならば3%以上の面積損になる。このメリットは素人にはすこぶる分かり易い説明だと思う。

  一方、図で分かるように外断熱では従来通りの考えで設計を進めて良いことが一目瞭然。
さて、外に追いやった断熱材をどう料理するかは後にして、面積がらみの話しを一つ。 図は札幌市の外断熱建物の建築面積算定基準である。従来の壁芯計算だと実外形面積との差が大きくなる事から決められた。 要は、外装仕上げが50o以下、断熱材が100oまでなら従来通りだから、それが断熱厚さの目途にされてしまう恐れがある。 しかし、スウェーデンなどでは既に180o、200o断熱のレベルになっている事を考えると大問題である。 エネルギー問題は国家の問題と言うならば抑制のために建設費増を負担した上に法的な制限を加えられるのは論外であり、優遇されることはあっても不利にされるべきではないと思うのだが。

  私が外断熱を始めたのはブロック二重積の住宅からである。マリオ ボッタの自邸に影響を受けた。 基本は150o厚の耐力壁ブロック+100o厚の押出ポリスチレンフォーム+通気層30o+120o厚の外装ブロックで合計400oの壁。 耐力壁が190oの時は断熱材のグレードを上げて厚さ75o、外装レンガ積み75o厚の時は150o断熱ができる。 総壁厚を400o(ブロック1個の長さ)は変えない事が二重積み設計のコツ。 北国は厚い壁でなけりゃね、と東京から戻ったばかりの建築家に話したら、2枚の壁厚合計で80pは廊下の巾だ!と言われてしまった。 地域性の違いはそれぞれに抱える問題も様々である。ちなみに、この場合の床面積は耐力壁芯で変わりないが、 建築面積は札幌市は外装ブロックの芯であるから敷地寸法と折り合いをつけるのに厳しかったケースがあったことも事実。


3 知ってしまったらやめられない外断熱建築
  「最初の住宅で、二重積みの性能というよりも威力を知ってしまって病みつきになっている」(住宅建築別冊 組積造の住宅、1986年)と書いた事がある。 外断熱のブロック住宅のことである。これは、外断熱の住宅に住む住人全ての感想でもある。もう、もとには戻れないのである。何がそう言わせるのか。 答えは、熱容量・蓄熱性の効果なのである。 が、そういう事例を他よりも多く抱えている北海道ですら一向にブレークしないのはいくつもの課題があるとは言え、それは言葉では伝えにくい価値だからである。 体験しなけりゃ分からない。 「コンクリートのような熱容量の大きな物質は巨大なエネルギーの貯金箱で、昼間の日射熱を蓄え夜にジワジワ放熱してくれ、夏には過剰な日射熱を吸収してくれるから急激な室度上昇も抑えられ、年間を通して温度変化が少ない穏やかな環境を作る」 となるが到底理解できないでしょう。 内断熱でも、結露しない程度の断熱性能と昔よりは数段向上しているサッシ性能が組み合わされればどんな設計であれ古い建物よりはほどほど良くなるのは当たり前。
ちなみに、建築各部位の断熱性能の計算値は断熱材の位置が外であれ内であれ同じである。 熱容量の効果をダイナミックに反映させられる設備設計者はまずいないから、計算上はどっちも同じ設備容量が必用で、と答えを出す。 そこで留まってしまうのである。
が、北海道にはその価値を街ぐるみで熟知している自治体もある。例えば、日本一寒い町の記録を持つ陸別町だ。 そこは自らの設計で1978年に最初の外断熱公営住宅を作る。スカート断熱はこの町で生まれたものだ。 着々とこの町の公営住宅の全てが外断熱に建替えられている。

  さて、やってみなけりゃ分かるもんか、では進まないからリアリティを共有できる資料を。室温の安定さとエネルギー消費の程度を示すのが良い。 図-2はRC外断熱住宅(写真-2、札幌市、断熱仕様は実例紹介のジャンプレッツと同じ)の測定データである。 深夜電力利用の床暖房であるが、真冬の北海道でたった3時間程度しか電気を使っていなかったことを示し、1日の室温変化は無いに等しい、と言えるだろう。

  夏の暑さに対する効果は、図-3に示す。この建物は川越市に建てたキリスト教会の事務所写真‐3)である。 RC造、壁は100o押出ポリスチレンフォームにレンガ積み仕上げ、屋根は300oグラスウール断熱に越屋根(小屋裏換気)付の置き屋根にした平屋の建物。 窓はトリプルガラス入り木製窓で全く北海道仕様そのままの断熱性能を持つ。 最高気温が連続40度近い真夏に執務時のみ9時間程度の冷房運転で図の結果になる。 三日目は冷房運転無しで室温がほぼ不変なのは写真-3で分かるように、深い軒の出による直射日光の遮蔽制御との組み合わせがポイントなのである。
この室温変動の少なさが躯体を構成しているコンクリートの熱容量の効果なのである。 この環境を生み出すのに使われた空調装置の運転時間の短さは省エネの成果を十分に理解できると思う。

  さて、図-3の測定時に、真夏の日射を受けて躯体温度がどのように変動しているかを示したものを図-4に示す。 レンガ積み壁表面温度は最高50度近くまで上昇し、夕方4時には外気温が27.5度に下がっても10度も高い。 この図で注目すべきは、外気温、外壁表面、断熱材表面の各時間毎の変化である。 12時では断熱材表面温度が一番低いが、午後2時には外壁表面温度が一番高い。 で、夕方4時になると、外気温は下がっているのに断熱材表面温度は2時の時よりも上回る。 これは、通気層を設けているが、日射熱がレンガに蓄えられ、つまりは暖房装置と化して断熱材表面を暖め続けている結果なのである。 断熱材の外側ではこのように大きく変動しているがコンクリート躯体である内壁表面温度は1度以内で不動であることが図―4のデータの根拠なのである。

  この図からは、夏のコンクリート建物は夜になっても暑くてたまらない、と言う事実と繋がりそうも無い事は想像できるであろう。 内断熱の建物は、この図の内側のコンクリート部分が無くて、レンガ壁の部分に相当する、ということなのだ。 つまり、この日の最高気温が38.6度なのに夕方4時になると40度に上昇していると言う事。断熱材が全くない、ということはそういうことなのだ。
だから多少の内断熱を施した程度ではさほど変らない事も想像できるだろう。 先に、コンクリートは巨大なエネルギーの貯金箱と書いたが、自分のモノに囲い込まなければ使えない。囲い込む道具が断熱材なのである。 断熱材の内側に置いたものは貯金箱になるが、外に置いたモノは敵に廻すことになるのである。

  これが木造の場合はどうであるか。風通しが悪くたって、この点においては木造のほうがまだマシであることは承知の通り。 それは、木材の熱容量が遥かに小さいことによるのである。 だから、木造の外断熱(これを外張り断熱と称して峻別している)では、コンクリート造外断熱のような大きな蓄熱効果は期待できない。 そこが決定的に違う。 外張り断熱の価値は、従来の充填断熱よりも確実に切れ目の無い断熱施工を容易にできること、 軸組は室内と同じ条件だから内部結露(内装仕上げをしなければ常に柱も間柱も観察できる)の排除など耐久性の向上をより確実にできることにあるのである。



U 外断熱の設計事例

ここでは、最新作(2003年3月竣工)の福祉施設・ジャンプレッツ(RC造、2階建、延床面積695u、札幌市内、写真-1)について紹介する。 コストは総工費を厚生労働省の標準建設費の範囲に納めたから、外構整備・付帯施設を除いた建築本体(暖冷房設備共)のみで計算すると約63万円/坪である。 私が手がけた単価グレードはこの程度が上限の部類。要求耐火構造は殆ど無く、2階建までが主である。 だから、中高層建築にストレートに応用できることは殆ど無いと思うが、ディテール組み立ての考え方は共通である。 全ては物理学の原理に対応することだけだから、これまで経験されている設計行為と何も変らないはずである。

断熱材の厚さ
外断熱では可能な限り厚くしたいものだが、次世代省エネ基準を目安に外装仕上の施工方法から断熱材の種類と厚みを決めている。 施工上のコストアップを伴わなければ可能な限り断熱材を厚くして高性能を目指すべきである。 例えば、木造ならば柱巾10pあるのに5pしか入れないとか、外装レンガ積みの高級仕様なのに漏水対策の通気層確保だけで断熱材無しや30oぽっち、などのディテールを見るともったいなくて涙が出る。 断熱材料そのもののコストが占める割合などほんの僅か(今までゼロだった方にとっては明らかな増加ではあるが)だからコストバランスをしっかり考えて欲しい。 通気層は余裕を見ても30o程度で良いのだから中空のままににするよりも安価な断熱材で良いからとにかくぶち込んでしまうこと。 通気層工法であれば断熱材の種類は何でも良い。 このところの私の設計では、外壁はグラスウール24`品50o+50o、基礎は押出法ポリスチレンフォーム3種75o、屋根はグラスウール24`品150oの組み合わせが標準。 断熱材の価格は北海道が全国一安いと思うがこの建物の断熱工事は全体の1.6%程度である。以下の説明は図-5の矩計図を参照。

基礎
ポリスチレンフォーム板は打ち込施工、GL下10p程度から地上部を樹脂モルタル塗仕上げを標準にしている。 仕上げ無しを標準にしているが、塗装仕上等行うときには、透湿性の材料を選ばないと内側からの水分で押し上げられ剥離の恐れ大。 基礎と壁との断熱材取合いは外断熱においてはことさら神経質になる必要はないが、施工中の欠損部は発泡ウレタン等で補修する。 ここは型枠兼用の断熱複合板を用いる手もあるが、表層の材種の耐久性を検討すること。


  外壁仕上げは通気層工法を基本にしてきた。 断熱材は、吹付ウレタンフォーム50o程度を用いたこともあるが、施工性・コスト・燃焼性などからグラスウール50oを二枚重ねにしている。 ちなみに、昨年秋の通達でRC造等の耐火構造に施す外断熱材にビーズ法・押出法ポリスチレンフォーム等も使えるようになったが吹付ウレタンフォームは除外されている。

  工程は、躯体に50o角の胴縁をビス止し、グラスウール50o充填。 次に直交方向にもう一度繰り返すと、合計100oで、断熱性能が低い木材だけの部分は胴縁の交点のみになる。 これはどんな大工さんでも出来るローテクな取付方法。なお、コンクリートの透湿抵抗はグラスウールを遥かに上回るのでポリフィルムは不要。
断熱材の施工は丁寧にやるべきだが、外断熱ではさほど神経質になることは無い。内断熱とはそこが決定的に違う。 内断熱では、針金一本でも冷橋になればダラダラ結露する。 が、外断熱では、断熱欠損はもちろん性能低下にはなるが分厚いコンクリート躯体全体で蓄熱されてるから表面温度の低下は抑えられ、結露に至ることは相当な事情が重なり合わねばありえない。 つまりちょいとした断熱欠損など、焼け石に水、状態にあしらってくれると言うことだ。
この点が、未だに解決されてはいない内断熱建築の結露被害の特効薬なのである。 北海道では、既存マンションなどで特に被害が大きい北面や東西面などは、居住者の生活そのままに外側からぺたりとやれるから外断熱改修例は多い。

  このような取付方針で、断熱性能低下を防ぎ、断熱厚を調整し易い専用金物工法を開発しているメーカーもある。 もちろん、この部分は外装材の重量に応じた検討が必用。重い仕上材の時は、例えばオープンジョイントの石張り工法と同じような検討を行えば良いのである。

  次に、グラスウールの防風と防水のために、防水通気シート(材料名 タイベック等)を貼る。 これは二次防水でもあるから、シートの重ねを十分に取り、窓廻りには十分注意を要する。

  外壁仕上げ材は、ここでは法的規制が掛らないので、メンテナンスを考慮して1階は木材の大和張りで2階部分はカラーガルバリウム鋼板の角リブ加工品を採用。 どちらも凹凸の断面になるからそこに通気スペースが生じる。工程を省くにはそういう材料選びがポイント。 平板材の時は通気層を確保する為の胴縁などスペーサーが必用。
ここで通気層を設ける、ということは外装材で躯体を密閉しないと言うこと。オープンジョイントにするのである。ここが重要。 とにかく材料のジョイント部の隙間はシーリングで埋めることが至上の常識、との考えを捨て去ることである。これでシーリング工事費は浮く。

  内部結露の問題は密閉されることで発生する。夏の雨にビニルのカッパでは、自らの汗でムレムレ、カッパの内側がびしょびしょになる。 この状態が要は内部結露。で、ゴアテックスなるものは水蒸気は外に通すが雨粒は通さないので快適。この状態を作ることが目的なのである。 で、水蒸気を外に逃がすのだから、色々な材料を組み合わせて外壁を構成する場合、躯体側から外に向かって常に透湿性の高い材料にしていくことが絶対条件。 が、ゴアテックスのような材料は塗料やシート状のはあるが外壁として衝撃にも耐えられるものはまずない。 透湿性の無い金属板などをベタリと貼ればビニルカッパ状態だから、そこに通気スペースを作るのである。

  通気層工法はやや面倒な工程を要するため、簡便さを求めた工法として、断熱材を張り付け、その上に特殊な塗材(上記のように貼り付けた断熱材より透湿性の高い材料)で仕上げてしまう工法がある。 欧米で外断熱工法の主流になっているもので、日本にも輸入されている。 工程が単純で複雑な部位にも使いやすいが、断熱材から仕上げ材まで一貫したメーカー仕様に限られる点を承知すれば工法の一切を委ねてしまえる利点は大きいと思われる。


  窓の性能は全体のエネルギー消費を抑える上で極めて重要。断熱してシングルガラス窓はありえない。 現在のところ私の標準仕様は、Low−Eトリプルガラスの木製窓。木製窓は枠の裏側(躯体と面する側)に内部結露が発生すると腐り始めるから、ここもオープンジョイントの考え。 躯体とのシーリングは内部のみ。外側にはしない。防水通気シートをサッシ廻りと防水テープで密着し、水切りをきっちり廻して外壁とオープンに取合うようにする。
オープンジョイントだから外壁のみの一線で防水は考えない。入ることを前提に逃がすディテールである。通気層によって内部が濡れても乾く。 従って、ここで頼りになるのが霧除け庇。基本的な窓廻りの伝統的手法を使う。で、それは日射の制御装置になる。

  アルミ、スチール、プラスチックサッシなど腐朽の恐れないものはきっちり躯体とシーリングして万全を期すのは当然。 そこに施したシーリングは断熱材や額縁などで直射日光の劣化から守られるから耐久性は著しく向上する。
図−6に示すように、外側は断熱材との取合いなどで手が込んでいる。そのぶん、内部は簡素にできる。 木製サッシの取付方法の特徴もあって精度を高めた躯体開口にコーキングのみで納めている。窓台のみ取付て三方枠無しで塗装のみでオシマイ。 そのあたりの工夫でコストバランスを取っていくのである。

屋根
  従来の陸屋根では、パラペットの立上り部分が断熱補強の対象になり、何とも厚ぼったくなる。 つるりと壁から屋根まで断熱材を連続させるには置屋根工法がベストと考えている。 上記のように、防水の備えと日射制御から軒の出を出すにも躯体と縁を切った置屋根が具合が良い。また、図のように屋根垂木の高さが通気層として確実に保持される。 これは、夏期の日射熱の遮断に大きな効果をもたらす。 景観等の配慮からフラットな躯体に勾配屋根を載せる(写真−3)とたっぷりの小屋裏通気スペースが出来るし、断熱材もたっぷり載せられ遮蔽効果が高まる。 カサ ミラの屋上アーチ空間はそういう機能なのである。

バルコニーなど
  躯体をそのまま外部に伸ばすと最初に述べた通り(図―1)、断熱補強を外側に向かって追っ掛けるか、対処的にその部分は内断熱の対応をしなければ結露被害や、熱損失の増大になる。 図−7は集合住宅のバルコニーで、断熱補強をしたものである。結構ややこしい。 本来はバルコニーの床面でも断熱補強をすべきであるが、この場合は温水床暖房にしているから躯体が暖められるので結露域まで下がらない、との判断で省略した。

  図−8 は鉄骨造バルコニーにしたブロック造二重積み公営住宅である。 フィンランドの雑誌を眺めると低層集合住宅では鉄骨や木造等の別構造で縁を切るのが多い。それをエレベーションの特徴になるようデザインするのである。
ジャンプレッツではバルコニーはないが、大きな庇を設けている(写真−4)。 ここではスチール金物(熱損失を少しでも抑えるにはステンレス)でアンカーしてカラマツ集成材で軽量に構成している。もちろん鉄骨でも良かったが。 また、ここには外部階段もある。鉄骨でやる方法もあるがRCで作った。段板を躯体外壁から持ち出す通常の構造ではヒートブリッジ面積が大きくなる。 で、ここは踊り場部分のみ躯体から持ち出して壁とは縁を切って断熱を通すことにした。丁度踊り場の下はユニットバスなので断熱補強が容易だったからである。

暖房設備
  断熱を強化すれば暖房負荷は下がり小さな設備で良い。かなり小さくなると、設備の種類が従来の考えと決定的に異なる。 北欧のゼロエネルギーハウスの試みは徹底的な高断熱を行い、 太陽取得熱や人体発熱、冷蔵庫やパソコンや照明器具の発熱(これらは従来の設備計算では安全要素として計算外だった)など小さなエネルギーを寄せ集めただけでおおかた賄えることを示した。

  札幌あたりでは、設計最低気温を−12度程度にすると、床面積あたりの概算暖房負荷は120〜150kcal/uあたりだったが、最近では一般工務店でもその半分程度の認識になっている。 40坪程度の住宅であれば居間用などとパンフレットに書かれているFFストープ1台で全室暖房を賄えることは常識になりつつある。 重設備から開放されるのである。
私の外断熱設計では経験的に30kcal/uあたり。ここでは、一部に灯油焚ヒートポンプ冷暖房を用いているが、メインは灯油焚ボイラーによる温水パネルヒーティング暖房である。 約600u対象の暖房ボイラー負荷計算値は約15000kcal/hだから25kcal/uとなる。こんなものである。

夏の制御
  外断熱をやると蓄熱性の増大で、冷房負荷が増える、というウワサがある。原因は別として、冷房機の運転が特段減らぬ現象は十分ありうる。 が、熱負荷は必ず減る。図―4から想像できるように、同じ断熱材厚であれ躯体の外に設ければ、外気の影響を緩和(その度合いは断熱材の厚さに依るが)し、 さらに断熱材の厚さに関わらず躯体は直射日光を受けないから、外気温が下がった夕方から壁面温度が上昇することも無い。 内断熱では、たとえどんなに断熱材を厚くしても躯体コンクリートの温度上昇の抑制には何ら関わらないことは想像の通り。 外断熱では、確実に冷房負荷は下がるのである。

  問題は窓からの日射熱である。これは断熱方法に関わらず、冷房負荷の重荷であり、どうあれ日射の取得を減らすことがまず第1。 断熱を強化して直射日光を遮る工夫をきっちりやれば、図-5のように熱容量の大きな躯体の温度は年間を通して緩やかな変動巾に抑えられるのである。 ブロック二重積み住宅の劇的な心地よさの一つは、夏の快適な涼しさである。 躯体全体が冬場に冷された涼しさを持続し、躯体からの冷輻射を与えてくれるから、それは洞窟のような、夏のドライブでトンネルに入ったときのような穏やかな涼しさである。 来客に、クーラーはどこにあるの?と必ず聞かれます、は共通話題である。


過去に学ぶ
  外断熱設計を続けてきて思うことは、たかだか数十年足らずの力任せの機械装置頼りにマヒさせられてしまってきたな、ということ。 省エネ、即ち機械装置頼みを減らすための手がかりは、機械が無かった時代の建築、機械を使わない暮らしを参照すれば良いのである。 暑さ、寒さ、強風、雨、それぞれに特異な自然条件に対応して暮してきた世界中の知恵を注意深く考察すれば答えはすべてあるはずだし、現代の技術をちょいと加えれば何だって出来るはずである。
ルドフスキーの「建築家なしの建築」をめくるのも良い方法だが、日本独特の蒸し暑い夏と雪も降る冬に備えてきた民家に学ぶべきだろう。 深い軒の出による日射制御と壁の劣化防止、土塗壁の蓄熱効果と調湿機能、瓦屋根の防暑効果、藁葺き屋根の超断熱性能、屋敷林の防風と木陰の涼み・ ・ ・。 外断熱の価値はそれらに通じるものがあると思っている。結露対処、クレーム対策に過ぎないパッチワーク内断熱とは決定的に異なる環境を体験してみてはいかが。

(小室雅伸)



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